月別アーカイブ: 2013年4月

Nexus 10 CPU Cortex-A15 の速度

前回は浮動小数点演算のみでした。
Cortex-A15 で他のテストも走らせてみました。

CPU benchmark

前回の浮動小数点演算では Cortex-A15 が最も良い結果となりました。
単体のピーク性能は Swift/Krait と同一ですが、
64bit 2 pipe のおかげか演算効率が高くなっている印象でした。

                                  time(sec)  MB/sec  MBPS/GHz
-------------------------------------------------------------
Exynos 5D  Cortex-A15 1.7GHz  x2   1.49      72.61    42.71
A6X        Swift      1.4GHz? x2   1.75	     61.82    44.16?
APQ8064    Krait      1.5GHz  x4   2.28      47.64    31.82

single thread の core 単体の比較です。

今回のテストには NEON や浮動小数点演算は含まれていません。
この場合同一クロック時の実行性能はだいたい Swift に並ぶようです。
A6X よりも Exynos 5 Dual の方が動作クロックが高いために、
リストの中では Nexus 10 が最も良い成績となっています。

Krait は唯一の 4 core なので絶対的な速度では優っていますが
単体ではあまり伸びていません。
浮動小数点演算では成績が良かったのですが、こちらのテストでは
他の CPU に差を付けられている形となっています。

そのうち Tegra4/Exynos 5 Octa など Cortex-A15 の Quad core が出るので
システム全体のパフォーマンスとしてかなり良い成績となりそうです。
Atom では比較にならないので、Core i はともかく他の CPU と比べたくなるのも
わかる気がします。

関連エントリ
Nexus 10 CPU Cortex-A15 の浮動小数点演算速度
iPad 4/iPad mini A6X/A5 の CPU/GPU 速度
benchmark 関連

Nexus 10 CPU Cortex-A15 の浮動小数点演算速度

Nexus10 を入手したので ARMv7A の新しい CPU core 3種類が揃いました。
Apple Swift, Qualcomm Krait, ARM Cortex-A15 を比べてみます。
動作クロックが一番高いせいもありますが、
Cortex-A15 の動作は Swift よりもさらに高速でした。

                (1)     (2)     (3)     (4)     (5)     (6)     (7)
               iPad3   Nexus7  EVO 3D iPhone5  iPad4   HTL21  Nexus10
                A5X    Tegra3 MSM8660   A6      A6X   APQ8064 Exynos5D
               ARM A9  ARM A9 Scorpion Swift   Swift   Krait  ARM A15
               1.0GHz  1.2GHz  1.2GHz  1.3GHz? 1.4GHz? 1.5GHz  1.7GHz
               VFPv3   VFPv3   VFPv3   VFPv4   VFPv4   VFPv4   VFPv4
----------------------------------------------------------------------
a:m44 vmla_AQ  4.784   3.959   2.859   1.293   1.204   1.337   0.619
b:m44 vmla_BQ  2.408   2.002   1.136   1.359   1.266   0.931   0.569
c:m44 vmla_AD  4.781   3.980   3.053   1.669   1.554   1.889   0.557
d:m44 vmla_BD  2.406   2.003   1.434   1.329   1.238   1.532   0.568
A:m44 vfma_AQ  -----   -----   -----   1.632   1.519   1.882   0.746
B:m44 vfma_BQ  -----   -----   -----   1.594   1.484   0.695   0.840
e:fadds     A  4.010   3.343   3.383   3.090   2.878   2.774   2.383
f:fmuls     A  4.010   3.337   3.383   3.167   2.953   2.747   2.369
g:fmacs     A  4.012   3.337   3.379   6.180   5.757   5.574   2.956
h:vfma.f32  A  -----   -----   -----   6.180   5.756   2.747   2.957
i:vadd.f32 DA  4.111   3.426   3.377   3.091   2.877   2.762   1.183
j:vmul.f32 DA  4.110   3.421   3.383   3.168   2.950   2.746   1.478
k:vmla.f32 DA  4.512   3.792   3.380   3.166   2.951   5.604   1.480
l:vadd.f32 QA  8.023   6.688   3.377   3.090   2.878   2.801   2.365
m:vmul.f32 QA  8.022   6.681   3.384   3.166   2.952   2.761   2.364
n:vmla.f32 QA  8.025   6.681   3.380   3.167   2.950   5.606   2.367
o:vfma.f32 DA  -----   -----   -----   3.167   2.494   2.833   1.479
p:fadds     B  4.014   3.347   5.917   6.181   5.756   3.467   2.956
q:fmuls     B  5.013   4.195   5.917   6.180   5.756   3.556   3.558
r:fmacs     B  8.023   6.688   8.451  12.361  11.514   6.298   5.912
s:vfma.f32  B  -----   -----   -----  12.363  11.513   3.430   5.910
t:vadd.f32 DB  4.113   3.421   5.916   3.090   2.881   3.529   2.958
u:vmul.f32 DB  4.118   3.422   5.073   3.169   2.949   3.447   2.364
v:vmla.f32 DB  9.027   7.561   8.451   6.180   5.755   6.293   4.728
w:vadd.f32 QB  8.021   6.705   5.916   3.090   2.879   3.457   2.961
x:vmul.f32 QB  8.029   6.683   5.074   3.167   2.950   3.428   2.363
y:vmla.f32 QB  9.026   7.532   8.457   6.179   5.759   6.372   4.729
z:vfma.f32 DB  -----   -----   -----   6.181   5.755   3.437   4.730
----------------------------------------------------------------------
↑数値は実行時間(秒) 数値が小さい方が速い

(1)=Apple iPad 3          A5X      Cortex-A9  x2 1.0GHz  VFPv3 i6.1
(2)=ASUS Nexus 7          Tegra 3  Cortex-A9  x4 1.2GHz  VFPv3 A4.2
(3)=HTC EVO 3D ISW12HT    MSM8660  Scorpion   x2 1.2GHz  VFPv3 A4.0
(4)=Apple iPhone 5        A6       Swift      x2 1.3GHz? VFPv4 i6.1
(5)=Apple iPad 4          A6X      Swift      x2 1.4GHz? VFPv4 i6.1
(6)=HTC J butterfly HTL21 APQ8064  Krait      x4 1.5GHz  VFPv4 A4.1
(7)=Samsung Nexus 10      Exynos5D Cortex-A15 x2 1.7GHz  VFPv4 A4.2

テスト項目の詳細は下記参照 (a:~z:)

Qualcomm APQ8064 Krait/A6 swift の浮動小数点演算能力

iPad4/EVO 3D/Butterfly は計測しなおしたため以前よりも数値が上がっています。

a:~d: を見ると 1.7GHz の Cortex-A15 は Swift の倍近い数値となっています。
命令単体でも効率が上がっており、Krait と比べても 64bit D (float2) 命令は
クロック差以上の速度となっています。

64bit D (float2) と 128bit Q (float4) に差があることから、おそらく
Cortex-A15 は 64bit 単位の ALU が 2 pipe 存在しているのではないでしょうか。
128bti Q (float4) 時の速度は Swift/Krait と大きな違いがないので
演算能力のピークレートは自体は Swift/Krait と同一でしょう。
D, Q の差がない Scorpion/Swift/Krait は 128bit 単位だと考えられます。

(1)~(3) Cortex-A9/Scorpion の a:~d: では AQ/AD と BQ/BD の結果に
大きな違いが生じています。
これが CPU 世代間の違いとなっており、(4)~(7) の Swift/Krait/Cortex-A15
では命令順に依存せずに一定の効率で実行できている事がわかります。

以前も書いたとおり Swift はスカラーの積和命令だけ遅くなっています。
NEON のベクターでは積和でも特に速度が落ちていないため、
何らかの構造的な理由によるものと思われます。

同じように Krait にも苦手なパターンがあります。
ARM では VFPv4 以降 FMA (Fused Multiply add) 命令が追加されています。
Krait は vfma (FMA) よりも従来の vmla 命令が倍近く遅くなっています。
中間丸め込みを行うために vmul + vadd に展開されている可能性があります。

●Krait 最適化

a:~d: の演算は vmla を使っていますが、この命令は Krait では低速となっています。
vfma に置き換えることで高速化できる可能性があるので試してみました。

// A: mat44 neon_AQ の vfma 化

   vmul.f32  q8, q0, d8[0]
   vlma.f32  q8, q1, d8[1]
   vlma.f32  q8, q2, d9[0]
   vlma.f32  q8, q3, d9[1]
    :
↓
   vmul.f32  q8, q0, d8[0]
   vdup.f32  q9,  d8[1]
   vfma.f32  q8, q1, q9
   vdup.f32  q10, d9[0]
   vfma.f32  q8, q2, q10
   vdup.f32  q11, d9[1]
   vfma.f32  q8, q3, q11
    :
// B: mat44 neon_AQ の vfma 化

   vmul.f32  q8,  q0, d8[0]
   vmul.f32  q9,  q0, d10[0]
   vmul.f32  q10, q0, d12[0]
   vmul.f32  q11, q0, d14[0]
   vmla.f32  q8,  q1, d8[1]
   vmla.f32  q9,  q1, d10[1]
   vmla.f32  q10, q1, d12[1]
   vmla.f32  q11, q1, d14[1]
    :
↓
   vmul.f32  q8,  q0, d8[0]
   vmul.f32  q9,  q0, d10[0]
   vmul.f32  q10, q0, d12[0]
   vmul.f32  q11, q0, d14[0]
   vdup.32   q12, d8[1]
   vdup.32   q13, d10[1]
   vdup.32   q14, d12[1]
   vdup.32   q15, d14[1]
   vfma.f32  q8,  q1, q12
   vfma.f32  q9,  q1, q13
   vfma.f32  q10, q1, q14
   vfma.f32  q11, q1, q15
    :

vfma は vmla と違い vector * scalar ができないので、
単純に置換するだけでは動きません。
SSE と同じようにデータのコピーが必要となるので vdup を挿入しています。

               ARM A9  ARM A9 Scorpion Swift   Swift   Krait  ARM A15
----------------------------------------------------------------------
a:m44 vmla_AQ  4.784   3.959   2.859   1.293   1.204   1.337   0.619
b:m44 vmla_BQ  2.408   2.002   1.136   1.359   1.266   0.931   0.569
    ↓
A:m44 vfma_AQ  -----   -----   -----   1.632   1.519   1.882   0.746
B:m44 vfma_BQ  -----   -----   -----   1.594   1.484   0.695   0.840

A: はかなり遅いですが、B: は効果がありました。
このケースでは Krait が Cortex-A15 を超えています。

予想通り Swift , Cortex-A15 にとっては逆効果で、vdup が増えた分だけ遅くなりました。

なお vmla と vfma は丸め込みのタイミングが異なるので厳密には結果は一致しません。
vfma の方が誤差が少ないのですが、Cのコードで普通に書くと fmacs になるので
検証コードで見事に assert に引っかかりました。

関連エントリ
2013/01/09:Qualcomm APQ8064 GPU Adreno 320 の速度
2012/12/23:Qualcomm APQ8064 Krait/A6 swift の浮動小数点演算能力

Nexus 10 GPU Mali-T604

Nexus 10 のデータを追加しました。
Nexus 10 の Exynos 5 Dual は Krait + Adreno 320 の APQ8064 と同じように、
CPU (Cortex-A15)、GPU (ARM Mali-T604) ともに新しい世代の core が用いられています。

Mobile GPU の OpenGL ES Extension

下記 GPU 機能の比較表も更新しました。

Mobile GPU の機能比較表

Mali-T604 は OpenGL ES 3.0 世代の GPU ですが、今のところ使えるのは
Adreno 320 同様 OpenGL ES 2.0 API の範囲に限られます。

Adreno の場合 OpenGL ES 2.0 API でも ETC2/EAC Texture など、
部分的に OpenGL ES 3.0 の機能が取り込まれていました。
Mali-T604 では特に OpenGL ES 3.0 を先取りしているような部分はないようです。

新しい core なので動作速度も十分高速でシェーダーパフォーマンスも良好です。
前世代の Mali-400MP では TBR ながら discrete 構成で頂点性能に難がありました。
Mali-T604 は Unified Shader となったため総合的に性能が上がっています。
構造の違いは機能面からもわかります。

例えば Shader Constant (Uniform) 数、Vertex Texture mapping 、
Pixel Format/Vertex Format、Shader の演算精度など、
さまざまな面で Vertex と Pixel (Fragment) の機能差が無くなっています。

Uniform数      Vertex Fragment
----------------------------------------
Tegra2/3        256    1024     discrete
Mali-400MP      128    1024     discrete
Mali-T604       256     256     unified
Adreno          251     221     unified
PowerVR SGX 5   128      64     unified

Tegra2/3, Mali-400MP の Fragment Shader は Uniform 数に 1024 と極端に
大きな値を返しています。
おそらく古い GeForce と同じように、Pixel (Fragmen) の場合だけ
Shader Program のバイナリを直接書き換える仕組みで、
事実上制限が無いのだと思われます。

T604 は Vertex / Fragment との差がなく他の GPU に近い数値になりました。

これまで Unified Shader の GPU は大きく分けて、highp 固定精度と
highp/mediump/lowp 可変精度の 2種類ありました。

Unified Shader GPU     Precision
---------------------------------------------------------
Adreno 200/300         highp のみ          (highp 固定)
Vivante GC             highp のみ          (highp 固定)
PowerVR SGX 5          highp/mediump/lowp  (3種類の可変)
Mali-T604              highp/mediump       (lowp 無し)

Mali-T604 は PowerVR のように precision 宣言が有効ですが、
highp と mediump の 2種類しかありません。
mediump 固定で lowp が無かった Mali-400MP に似ています。

highp に対応しているにも関わらず GL_OES_fragment_precision_high が
無いので、Mali-400MP と同じように Fragment Shader (PixelShader) では
mediump を使って欲しいのかもしれません。

ただし下記の記事にも書いたように glGetShaderPrecisionFormat() の返す値は
実際の動作と異なっている場合があります。まだ実測していません。

OpenGL ES 2.0 GLSL precision 宣言と GPU 毎の演算精度を調べる
Mobile GPU の比較 Precision

●全然関係ないシェーダーのはまり

GPU 機能とは関係なく、Nexus 10 の解像度の高さに自分のシェーダーが対応できて
いませんでした。
もともと浮動小数点の演算を利用して複数のデータを圧縮して格納していたのですが、
2560×1600 のスクリーン座標がオーバーフローしていることが原因でした。
やはり演算精度は実機できちんと測定しておいた方がよさそうです。

関連エントリ
Qualcomm APQ8064 GPU Adreno 320 の速度
OpenGL ES 2.0 GLSL precision 宣言と GPU 毎の演算精度を調べる
GPU 速度に関連するエントリ

3DMark Android 版の結果から

Android 版 3DMark アプリの DEVICE CHANNEL から各機種の結果を見ることができます。
非常に興味深く、見ていて面白いデータです。
まとめてみました。

SoC      CPU       core  GPU              Score        CPU vs GPU
-----------------------------------------------------------------
APQ8064  Krait      x4   Adreno 320       8000-11000   CPU <= GPU*
Exynos5D Cortex-A15 x2   Mali-T604        7800        *CPU >  GPU
MSM8960  Krait      x2   Adreno 225       5000-6500    CPU <= GPU*
MSM8x60  Scorpion   x2   Adreno 220       3700-5000    CPU <= GPU*
Tegra3   Cortex-A9  x4   ULP GeForce(12)  3000-4000   *CPU >> GPU
K3V2     Cortex-A9  x4   Vivante GC4000   3400-3700   *CPU >> GPU
OMAP4470 Cortex-A9  x2   PowerVR SGX544   3600        *CPU >> GPU
Exynos4Q Cortex-A9  x4   Mali-400MP4      2500-3400   *CPU >> GPU
Z2460    Atom       x1   PowerVR SGX540   2400        *CPU >> GPU
Exynos4D Cortex-A9  x2   Mali-400MP4      1600-2100   *CPU >> GPU
OMAP44x0 Cortex-A9  x2   PowerVR SGX540   1300-3400   *CPU >> GPU
MSM8x55  Scorpion   x1   Adreno 205       1750         CPU <  GPU*
RK3066   Cortex-A9  x2   Mali-400MP4      1200-2800   *CPU >> GPU
Tegra2   Cortex-A9  x2   ULP GeForce(8)   1400-2100   *CPU >> GPU

・Score の値が大きい方が速い
・数値は常に変動しているので現時点での目安としてみてください。

一番右端の列は CPU と GPU どちらのスコアが高いかを示しています。

全体的に Adreno22x/320 の数値が高い傾向にあります。
右側の列を見てわかるように、CPU よりも GPU のスコアが高いのは
Qualcomm (Adreno) のプロセッサだけです。

Exynos/OMAP/Tegra 等、Quallcom 以外はすべて CPU の方が高くなっており、
その差も 2倍程度まで広がっています。

なぜこのような結果になっているのか考えてみます。

●CPU

CPU は 2グループあります。

(A) Cortex-A9, Scorpion
(B) Cortex-A15, Krait

(B) は新しい世代の CPU core で、動作クロックの違いもありますが
実行効率そのものが向上しています。
例えば (A) が 2命令 deocde の Out-of-Order 実行だったのに対し、
(B) グループは 3命令に引き上げられています。
同一クロック、同コア数でも Krait, Cortex-A15 の方が高速です。

●Adreno

各社の SoC/GPU は多種多様で得意分野がはっきりしています。
Adreno は ATI の流れをくむモバイル向け GPU で、
最も Desktop 向け GPU に近い機能を持っています。
これは他の GPU にはない大きな特徴です。

例えば頂点テクスチャや Volume Texture (3D Texture) など、
Mobile 向け用途ではあまり必要とされない機能にもしっかり対応しています。
実際に各種 GPU 機能を比較した表は下記のとおりです。

Mobile GPU の比較

Fragment Shader (PixelShder) の演算精度も fp32 の highp 固定で、
描画クオリティも Desktop GPU と同等です。
パフォーマンスを上げるために見た目を犠牲にする必要がありません。

その代わり初期の Adreno 20x/AMD Z430 では頂点キャッシュが無く、
Desktop GPU 同等の描画機能を有する反面、パフォーマンスが思ったように
伸びない傾向がありました。
この点は Adreno 22x 以降改良されており、描画プリミティブに依存せず
大きくスループットが上がっています。

複雑なシェーダーもかなり走るのですが、アプリケーションによっては
あまり速度が出ていないものが存在します。
あくまで想像にすぎませんが、Adreno は OpenGL ES 1.1 の固定パイプを
シミュレーションするのが苦手なのかもしれません。(未確認です)

Shader を使って描画を行う場合、Adreno はモバイルに特化した最適化を
極端に行う必要がなく、シェーダーを移植しても速度が落ちにくい傾向を持っています。
このあたりがベンチマークに有利に働いたのではないでしょうか。
まとめると

・highp 固定なので、演算精度を落とさなくても速度が変わらない。
 ・モバイル向けに mediump/lowp 化するなど特別な最適化を行う必要がない。
 ・PC の描画クオリティから落とす必要がない。
・Uniform 数, Sampler 数も多く Extension も豊富で互換性を取りやすい。
・Unified Shader なので、Vertex 負荷、Pixel 負荷どちらにも対応しやすい。

また Adreno 320 は OpenGL ES 3.0 に対応した新しい設計の GPU core なので
世代的にもかなり高性能です。
使われている API が ES 2.0 なので、まだ眠っている HW 機能があります。
今後さらにスコアが伸びるものと考えられます。

Mobile GPU bench mark

●Mali-400MP4

GPU の「Core 数」は GPU によって数え方が異なっており単位がばらばらです。
端末のスペックに GPU の core 数が書かれている場合がありますが、
性能の指標になるのはあくまで同一 GPU 同士を比べる場合だけです。

PowerVR SGX の MP1~4 は CPU とほぼ同じ概念で、
GPU そのものが複数存在し並列に動作します。

Tegra の core 数は GPU 内の演算ユニットの数を表しています。
G80以降 の Desktop GPU に合わせたもので、Unified Shader の
Stream Processor 相当で何個分なのかを表しています。
Discrete ですが Vertex, Fragment 両方カウントされます。

Mali-400 は下記のページの図 (Mali-400 MP Image) にあるように
Fragment Processor の UNIT 数を選択可能で、MP1~MP4 と呼ばれています。
この数には Vertex Processor が含まれていません。

ARM Mali-400 MP

Tegra2/3 でも 8→12 と core 数は増えていますが頂点 Unit 数は同一です。
もし仮に Mali-400MP 同様 Fragment Processor だけ数えるなら
Tegra2 の ULP GeForce(8) は Vertx 4 + Fragment 4 で MP1、
Tegra3 の ULP GeForce(12) は Vertex 4 + Fragment 8 で MP2 となるでしょう。

つまり Discrete Shader の GPU ではスペック表記上の core 数が増えても、
頂点性能が向上するとは限りません。

Galaxy S2 で Mali-400MP4 登場した時は非常に Pixel パフォーマンスが高く、
他の GPU と比べても良い性能でした。
ですがその後複雑な 3D シーンでは頂点性能がボトルネックになることが
わかっています。

上記のように MP4 でも頂点性能は増えておらず、
10~20万など比較的低いレベルで頭打ちになってしまうようです。

3DMark Ice Storm のポリゴン数はかなりハイポリゴンだと考えられるため、
Mali-400MP4 のパフォーマンスが振るわないのはそのためだと考えられます。

Pixel Shader は mediump なので、厳密には Desktop GPU より演算精度が落ちています。
ただし Tegra や PowerVR SGX のように、最適化で精度を削るほどシビアではありません。
頂点がボトルネックになるだけでピクセル側は mediump 固定なので、
あまり手を加える必要は無いようです。

Mali-T604 以降は Unified Shader なのでまた特性が異なっているはずです。

●Tegra2/3

Mali-400MP と同じ Discrete Shader ですが、特性は正反対です。
頂点に余裕がある代わりに Pixel が足りなくなります。
比較的ハイポリでシンプルなマテリアルの場合に良いパフォーマンスとなるようです。

Mali-400MP 同様 Pixel 精度は mediump までですが、複雑なシェーダーコードでは
lowp を併用して質よりも速度を優先する必要が生じます。
depth の解像度も他の GPU より落ちます。

他の GPU よりも対応 Extension が少なくなっており、ハードウエアの機能も大胆に削られてます。
例えば depth texture が使えないので、ShadowMap はカラーマップに
書き込む必要があります。
depth を圧縮しなければならないので、シェーダーにも追加の演算コードが必要です。
OpenGL ES 2.0 の仕様上 depth texture 対応は必須ではないのですが、
対応していない GPU が Tegra2/3 だけとなっています。

3DMark では比較的ハイポリでも Mali-400MP ほどスコアが落ち込むことはなくなっており、
GPU の能力として妥当な結果だと思います。

NVIDIA らしくない性能の GPU もおそらくこれが最後でしょう。
Tegra4 では機能面でも速度面でも大きく手が加えられており、
かなりスコアが伸びるものと考えられます。

●PowerVR SGX

以前の記事にも書いたように、PowerVR SGX 5xx は 2種類あります。
Android 端末では古い Series 5 (SGX540) が多いため、
GPU の性能的にもベンチマークのスコアがあまりよくないようです。
他にも考えられる原因はあります。

PowerVR SGX はどんな描画でもそつなくこなす傾向があります。
頂点が多いシーンでもピクセルが多いシーンでも柔軟に追従します。

使い方の自由度も高く、画質優先に振っても良いし、速度重視にもできるし、
用途によって使い分けられます。
その反面、決まった解法がなく状況に応じた判断を求められます。

例えば Uniform 数はパフォーマンスを考えるなら 128個以内、
移植性や使いやすさなら 256個使うなど。(過去記事の comment参照)

また Pixel に highp fp32 を使うことができるので、
Desktop GPU と同一の精度で描画することができます。
パフォーマンスがあまり上がらないので、速度を考えるなら
見た目を犠牲にしてでも mediump, lowp へと置き換えることになります。

他の GPU と違い TBDR なので、ALU の利用効率が全体のパフォーマンスに
与える影響が大きくなっています。

通常の GPU はラスタライザから PixelShader (Fragment Shader) が呼ばれるので、
パイプライン待ちのサイクルが存在します。
ラスタライザや depth test など、他のステージが詰まっているときは
Shader を削っても速度が大きく変化しません。

PowerVR SGX は Deffered Rendring なので、Pixel Shader が呼ばれるときは
ラスタライザ等他のステージが完了しています。
Shader の命令を削れば削るほど直接パフォーマンスに響いてくるので
最適化はシビアになりがちです。

ここが最も Adreno と違うポイントで、パフォーマンスを優先するならかなり
手を加える必要があります。高速化出来る余地が残っているともいえます。

なお見た目が変わるとベンチとしての正しい比較とは言えないかもしれないので、
3DMark は比較的高い演算精度でレンダリングしているのではないかと考えられます。
もしそうなら、Tegra/Mali とは違い PowerVR のスコアはまだ上がる余地が
残っていることになります。

iOS 版が出たら、どの程度 PowerVR SGX 向けに最適化されているのか
わかるのではないでしょうか。

・おそらく GPU 毎の Shader 最適化がそれほど強くないので、速度が落ちにくい Adreno が有利
・OpenGL ES 3.0 対応最新 GPU + 新 CPU と、いち早く世代交代した Qualcomm (Krait quad + Adreno 320) がやっぱり速い

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3DMark Android Edition Ice Storm v1.1 の結果

Android 版 3DMark を手持ちのデバイスで試してみました。

Ice Storm (1280x720)

   SoC     GPU            Score Graph Physics GT1   GT2  PhysT Demo  OS
---------------------------------------------------------------------------
1: APQ8064 Adreno 320      9922 10061  9463  43.4  44.1  30.0  47.4  A4.1.1
2: MSM8660 Adreno 220      3167  4218  1692  19.2  17.6   5.4  19.0  A4.0.3
3: Tegra3  ULP GeForce(12) 3559  3143  6638  12.3  15.4  21.1  17.1  A4.2.2
4: Tegra2  ULP GeForce(8)  1448  1268  2878   5.5   5.5   9.1   6.4  A3.1

数値が大きい方が高速

スペック的に最新の Snapdragon APQ8064 (HTC J butterfly HTL21) がトップでした。

次に速いのは Tegra3 (Nexus7) ですが、よく見ると総合スコアは高いものの
Graphics score は MSM8660 の Adreno 220 に負けていることがわかります。

MSM8660 の CPU は Dual core 、Tegra3 は Quad core なので
Graphics で負けている分を Physics の CPU 速度で挽回した形になります。
Tegra らしい結果といえるかもしれません。

ここで気になるのは、Physics score で Scorpion 1.2GHz dual core の MSM8660 が
Cortex-A9 1.0GHz dual core の Tegra2 にも負けていることです。

Tegra2 は NEON を搭載していないので、浮動小数点演算のピークパフォーマンスが
1/2 ~ 1/4 と低いはずなのですが、他の CPU と大きな差がついていません。
Tegra2 のスコアを core 数で 2倍、クロック数で 1.2 倍すると
2878 * 2 * 1.2 = 6907

Tegra3 のスコア 6638 に近い数値となります。
演算性能だけ考えると NEON の分だけ差が開いてもよさそうなので、
NEON があまり活用されていないか、またはバス速度や描画など演算速度以外に
ボトルネックが存在している可能性があります。

それでも Scorpion のスコアは少々低すぎる気がします。

APQ8064 の Krait は十分速いですが、世代的にはもう少し数値が伸びても
良いのではないかと思いました。

下記のページでは Nexus 10 のスコアが掲載されています。
興味深いので一部引用させて頂きます。

4gamer: Futuremark,「3DMark」のAndroid版を発表。スマートフォン・タブレット8機種でテストしてみた

        SoC      GPU      Score Graph Physics GT1   GT2  PhysT Demo  OS
---------------------------------------------------------------------------
Nexus10 Exynos5D Mali-T604 5072  4567  8287  18.3  27.4   8.7  20.6  A4.2.2

Graphics 性能自体はあまり高くないですが、Physics のスコアが非常に伸びています。
Cortex-A15 1.7GHz dual core でこの数値なので、同クロックで比べても
Cortex-A9 の倍近くとなり、現行 Krait でも届きません。

Tegra4 や Exynos 5 Octa など、Cortex-A15 の Quad core が出たら
CPU 最速で間違いないでしょう。

もちろん Qualcomm も Krait 400 ではスコアが伸びていると思われます。

以下 Extream の結果

Ice Storm Extream (1920x1080)

   SoC     GPU            Score Graph Physics GT1   GT2  PhysT Demo  OS
---------------------------------------------------------------------------
1: APQ8064 Adreno 320 1.5  6133  5479 10530  26.8  21.4  33.4  23.9  A4.1.1
2: MSM8660 Adreno 220        --    --    --    --    --    --    --  A4.0.3
3: Tegra3  ULP GeForce(12) 1884  1574  6054   7.3   6.4  19.2   7.1  A4.2.2
4: Tegra2  ULP GeForce(8)   722   597  2721   3.1   2.2   8.6   2.6  A3.1

数値が大きい方が高速

HTC EVO 3D ISW12HT (Snapdragon MSM8660) では Ice Storm Extream が動きませんでした。

テストしたデバイスの詳細は下記の通り

   Name                  SoC       CPU       Clock core  GPU
-------------------------------------------------------------------------
1= HTC J butterfly HTL21 APQ8064   Krait     1.5GHz x4   Adreno 320
2= HTC EVO 3D ISW12HT    MSM8660   Scorpion  1.2GHz x2   Adreno 220
3= Nexus 7               Tegra3    Cortex-A9 1.2GHz x4   ULP GeForce(12)
4= OptimusPad L-06C      Tegra2    Cortex-A9 1.0GHz x2   ULP GeForce(8)

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