スレッド同期命令の比較 C++11 とコンパイラ

スレッド間の同期を取る方法は複数あります。
OS のカーネルオブジェクト、ライブラリ関数、OS 依存の API など。
他にも CAS のような最低限の atomic 操作を使って Spinlock を作ることができます。
もちろんハードウエアスレッド環境に限ります。

C++11 対応に伴いコンパイラも新しい atomic 命令に移行しています。
例えば gcc の builtin 命令は __sync_ から __atomic_ となり、
clang にも同様に __c11_atomic_ があります。

Windows の場合は OS に Interlocked~ API がありますが、
VC++ が生成する同名の Intrinsic バージョンもあります。
こちらも C++11 に従いメモリバリアを指定できる命令が追加されているようです。

// CAS
gcc      __atomic_compare_exchange_*()
clang    __c11_atomic_compare_exchange_*()
Windows  _InterlockedCompareExchange_*()

gcc 4.7.2 : Built-in functions for memory model aware atomic operations
Clang 3.3 : Clang Language Extensions
msdn : x86 Intrinsics List

↓各種 API による比較です。

(1) Windows             Win8 x86   Win8 x64
-------------------------------------------------------
SpinLock(intrinsic)         5852       6353
CriticalSection            20894      22610
Win32 Mutex              2537901    3790403


(2) Linux              Linux x86   Linux x64   Linux ARM
-------------------------------------------------------
SpinLock(gcc atomic)      12712       10641       27977
pthread mutex             13693       11796       23807


(3) MacOS X         MacOS X x86  MacOS X x64
-------------------------------------------------------
SpinLock(OSAtomic)         9505        9070
pthread mutex            563013      467785

// 実行時間 単位=us

3つのスレッドで同じカウンタをそれぞれ 50000回カウントしています。
100% 競合する状態で、ロック手段による違いを測定しています。

走らせた PC のスペックが異なることと、数値の変動が大きいため
単純な比較ができないのでご注意ください。
同じ OS 内で API による違いだけ見てください。

(1) Windows (Windows 8 + VS2012 Express)

カーネルオブジェクトである Mutex は非常に遅くなっています。
CriticalSection の方が2桁高速ですが、_Interlocked 命令を使った
SpinLock の方が更に速い結果となっています。

(2) Linux (Ubuntu 12.10 / 13.04)

x86/x64 は VMware Player によるテストなのでご了承ください。
特筆すべき点は pthread_mutex が SpinLock と全く変わらないか、
むしろ速いということです。

SpinLock を作る場合に atomic API の使い方を間違えると、
pthread_mutex よりも遅くなったり、ロックに失敗したりするようです。

X86/x64 の場合 gcc (4.7.2) builtin の __atomic_ でメモリアクセス方法に
__ATOMIC_SEQ_CST を指定すると pthread_mutex よりも低速でした。
__ATOMIC_RELAXED で pthread と同等になります。
また Legacy API ですが __sync_ を使った場合も pthread と同等の
速度となりました。

ARM (Cortex-A9) では RELAXED の場合メモリアクセスが競合し
正しくブロックされません。
上記テストは ARM の場合のみ SEQ_CST を指定しています。
また __sync_ も RELAXED 相当なためかロックされませんでした。

(3) MacOS X (10.8)

OSAtomic と phtread_mutex で大きな隔たりがあります。
同じ pthread の mutex でも、Linux と違い Windows のように
カーネルオブジェクトとして実装されている可能性があります。

API が同一でも OS と CPU によって挙動が違うことがわかりました。
Linux では pthread_mutex が最もよい選択ですが、
MacOS X では逆に pthread_mutex を避けた方が良いようです。

テストプログラムは下記のとおり。

template
class LockTest {
    LockT  lock;
    static int Counter;
    enum {
        MAX_LOOP= 50000
    };
public:
    void thread_func()
    {
        for( int i= 0 ; i< MAX_LOOP ; i++ ){
            lock.Lock();
            Counter++;
            lock.Unlock();
        }
    }
    void Run()
    {
        ClockTimer time;

        Counter= 0;
        Thread t0, t1, t2;

        t0.Run( this, &LockTest::thread_func );
        t1.Run( this, &LockTest::thread_func );
        t2.Run( this, &LockTest::thread_func );

        t0.Join();
        t1.Join();
        t2.Join();

        time.Output();
        assert( Counter == MAX_LOOP * 3 );
    }
};

関連?エントリ
C++11 Rvalue Reference 右辺値参照