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Ryzen Zen5 一般向け CPU で過去最高の浮動小数点能力

AMD Ryzen Zen5 世代の Desktop CPU で vfpbench を走らせてみました。使用したのは Ryzen 7 9700X で TDP はデフォルト (65W) 設定です。

Zen5 は AVX512 の 512bit FMA 積和命令を同時に 2命令実行可能で、この場合 32bit の浮動小数点演算をサイクルあたり 64 回。これまでの CPU の倍の演算能力になります。

以下は 9700X のシングルスレッド単精度からの抜粋です。512bit の AVX512 命令がスカラーや 128bit など他の命令と同じ IPC になっていることがわかります。512bit の FMA (vfmaddps) も同じ IPC で 2命令走っています。

 9700X Zen5                      TIME(s)   MFLOPS      MOPS     FOP   IPC
FMA vfmaddss (32bit x1) n12       0.450    22301.1    11150.5  (  2.0 2.0)   スカラー fma
FMA vfmaddps (32bit x4) n12       0.451    89189.2    11148.6  (  8.0 2.0)   128bit fma
FMA vfmaddps (32bit x8) n12       0.450   178399.7    11150.0  ( 16.0 2.0)   256bit fma
AVX512 vmulps (32bit x16) n12     0.450   178398.1    11149.9  ( 16.0 2.0)   512bit mul
AVX512 vaddps (32bit x16) n12     0.451   178338.0    11146.1  ( 16.0 2.0)   512bit add
AVX512 vfmaddps (32bit x16) n12   0.451   356760.6    11148.8  ( 32.0 2.0)   512bit fma

さらに FMA ではなく乗算命令+加算命令の場合は以下のようになります。

 9700X Zen5                      TIME(s)   MFLOPS      MOPS     FOP   IPC
AVX512 vml+adps (32bit x16) n12   0.225   356510.6    22281.9  ( 16.0 4.0)   512bit mul + add

512bit 加算 x2 と 512bit 乗算 x2 が同時に走っており IPC は 4。ピーク FLOPS 値は FMA x2 と同等で、加算+乗算命令の組み合わせの場合は AVX512 512bit 命令を同時に 4命令実行できることになります。

Zen4 では 512bit AVX512 命令はクロックあたり 1命令相当だったので、Zen5 の浮動小数点演算能力は Zen4 比で 2倍です。以下は Ryzen 7 7840HS (Zen4) の結果からの抜粋です。こちらは Zen5 の結果とは違い、256bit 命令に対して 512bit 命令の IPC が半減していることがわかります。

 7840HS Zen4                     TIME(s)   MFLOPS      MOPS     FOP   IPC
FMA vfmaddps (32bit x8) n12       0.337   162355.4    10147.2  ( 16.0 2.7)   FMA3   256bit fma
AVX512 vfmaddps (32bit x8) n12    0.342   160130.1    10008.1  ( 16.0 2.6)   AVX512 256bit fma
AVX512 vfmaddps (32bit x16) n12   0.680   160984.2     5030.8  ( 32.0 1.3)   AVX512 512bit fma

↑ 7840HS の IPC が割り切れない値 (1.3 や 2.6) になっているのは、数値がベースクロックの 3.8GHz 換算になっているためです。実測時は Boost 5.1GHz で動作していたため 5.1/3.8 = およそ 1.3 となります。

また現在の一般向け Intel CPU は AVX512 に対応しておらず、AVX2 (256bit) までとなります。少々世代が古いですが以下は RaptorLake Core i7-13700 の結果で、P-Core で 256bit fma が 2、E-Core で 1 命令です。

 i7-13700 RaptorLake P-Core      TIME(s)   MFLOPS      MOPS     FOP   IPC
FMA vfmaddps (32bit x8) n12       0.442   165987.5    10374.2  ( 16.0 2.0)   P-Core 256bit fma
FMA vfmaddps (32bit x8) n12       0.902    65432.2     4089.5  ( 16.0 1.0)   E-Core 256bit fma

よって、Zen5 は 一般向けとしてはこれまでで最も浮動小数点演算能力が高い CPU と言えるのではないでしょうか。

256 add256 mul256 fma256 ml+ad512 add512 mul512 fma512 ML+AD
Zen522242224
Zen422241112
RaptorLake P-Core2223
RaptorLake E-Core1111

なお Zen4 (Ryzen 7 7840HS) の結果もこちらに追加しました。

関連エントリ

Google Tensor G3 の浮動小数点演算性能と SVE

SVE/SVE2 は ARM の新しい SIMD 命令です。特徴は、従来よりも長いサイズのベクタを扱えるようになったことです。AVX512 のマスクレジスタと同じように Predicate Register を持っており、任意長のベクタとしても扱うことができます。

AVX512 と違って CPU 側の実際のレジスタサイズは任意です。128bit の倍数なら何でもよく、最大で 2048bit になります。レジスタ長に応じてループ回数やマスク値を設定する命令が存在しており、CPU 毎の実装の違いを吸収することができます。

Tensor G3 は ARMv9 の CPU Coretex-X3/A715/A510 を搭載しているため SVE/SVE2 命令に対応しています。Cortex-X3/A715/A510 のレジスタサイズは 128bit でした。これは NEON 命令と同じなので、浮動小数点演算のピーク性能自体はどちらを使っても変わらないと思われます。

vfpbench に SVE 命令を追加したので Pixel 8 で試してみました。

Cortex-A510 SingleT SP                          FLOPS                      IPC
NEON fmul.4s (32bit x4) n12       :    0.454    13519.8     3379.9  (  4.0 2.0)
NEON fadd.4s (32bit x4) n12       :    0.453    13543.1     3385.8  (  4.0 2.0)
NEON fmla.4s (32bit x4) n12       :    0.453    27055.6     3382.0  (  8.0 2.0)
SVE fmul.s (32bit xN) n12         :    0.453    13529.6     3382.4  (  4.0 2.0)
SVE fadd.s (32bit xN) n12         :    0.454    13523.3     3380.8  (  4.0 2.0)
SVE fmla.s (32bit xN) n12         :    0.453    27080.5     3385.1  (  8.0 2.0)


Cortex-A715 SingleT SP                          FLOPS                      IPC
NEON fmul.4s (32bit x4) n12       :    0.452    18864.7     4716.2  (  4.0 2.0)
NEON fadd.4s (32bit x4) n12       :    0.452    18868.5     4717.1  (  4.0 2.0)
NEON fmla.4s (32bit x4) n12       :    0.452    37731.6     4716.5  (  8.0 2.0)
SVE fmul.s (32bit xN) n12         :    0.451    18897.2     4724.3  (  4.0 2.0)
SVE fadd.s (32bit xN) n12         :    0.452    18847.1     4711.8  (  4.0 2.0)
SVE fmla.s (32bit xN) n12         :    0.452    37717.2     4714.6  (  8.0 2.0)


Cortex-X3 SingleT SP                            FLOPS                      IPC
NEON fmul.4s (32bit x4) n12       :    0.676    46546.0    11636.5  (  4.0 4.0)
NEON fadd.4s (32bit x4) n12       :    0.678    46425.0    11606.2  (  4.0 4.0)
NEON fmla.4s (32bit x4) n12       :    0.902    69792.8     8724.1  (  8.0 3.0)
SVE fmul.s (32bit xN) n12         :    0.675    46594.6    11648.6  (  4.0 4.0)
SVE fadd.s (32bit xN) n12         :    0.679    46365.2    11591.3  (  4.0 4.0)
SVE fmla.s (32bit xN) n12         :    0.901    69842.9     8730.4  (  8.0 3.0)

右端の IPC を見るとわかりやすいでしょう。シングルスレッド単精度による結果の比較ですが、やはり 128bit 演算になるため NEON、SVE どちらも結果に違いはありませんでした。もちろん 256bit や 512bit 対応 CPU では結果が異なりますし、マスクレジスタを利用できるという大きなメリットもあります。

SVE とは関係ないですが、少々気になるのは Cortex-A510 の結果です。128bit 命令の IPC が 2 となっており、これは Tensor G2 の Cortex-A55 と比べると 2倍の数値となります。この結果だけ見るとクロックあたりの浮動小数点演算演算能力が上位 CPU と同じ水準まで強化されているように見えます。

そのため A55 世代と比べると全体のピーク FLOPS 値が大きく伸びているはずですが、結果を見ると思ったほど上がっていません。以下の表は A55 との比較です。シングルスレッド性能は 2倍になっているのにマルチスレッド性能はあまり変わっていないことがわかります。

SoCCPU CoreClockcore数Single-T SPMULTI-T SP
Tensor G3Cortex-A5101.70 GHz427.1 GFLOPS61.3 GFLOPS
Tensor G2Cortex-A551.80 GHz414.0 GFLOPS54.7 GFLOPS
↑ 浮動小数点演算命令単精度のピーク値、FLOPS の値が大きい方が高速

その要因はマルチスレッド時の各命令の詳細をみると明らかです。マルチスレッド実行時は Cortex-A510 の演算能力 (IPC) が半減しています。

Cortex-A510 SingleT SP                          FLOPS                      IPC
NEON fmul.4s (32bit x4) n12       :    0.454    13519.8     3379.9  (  4.0 2.0)
NEON fadd.4s (32bit x4) n12       :    0.453    13543.1     3385.8  (  4.0 2.0)
NEON fmla.4s (32bit x4) n12       :    0.453    27055.6     3382.0  (  8.0 2.0)
SVE fmul.s (32bit xN) n12         :    0.453    13529.6     3382.4  (  4.0 2.0)
SVE fadd.s (32bit xN) n12         :    0.454    13523.3     3380.8  (  4.0 2.0)
SVE fmla.s (32bit xN) n12         :    0.453    27080.5     3385.1  (  8.0 2.0)

Cortex-A510 MultiT SP                           FLOPS                      IPC
NEON fmul.4s (32bit x4) n12       :    0.885    27730.1     1733.1  ( 16.0 1.0)
NEON fadd.4s (32bit x4) n12       :    0.907    27041.8     1690.1  ( 16.0 1.0)
NEON fmla.4s (32bit x4) n12       :    0.906    54190.8     1693.5  ( 32.0 1.0)
SVE fmul.s (32bit xN) n12         :    0.909    26991.1     1686.9  ( 16.0 1.0)
SVE fadd.s (32bit xN) n12         :    0.904    27150.5     1696.9  ( 16.0 1.0)
SVE fmla.s (32bit xN) n12         :    0.801    61290.4     1915.3  ( 32.0 1.1)

AMD Bulldozer 系のように演算ユニットが複数のコアで共有されているか、もしくはマルチスレッド高負荷時のクロック制限の可能性などを考えましたが、結果は前者でした。Arm CortexA510 Core Software Optimization Guide によると A510 の浮動小数点演算ユニットはどうやら 2 core で共有されているようです。

よって Cortex-A510 では 64bit 命令の場合は core あたり 2命令ですが、128bit 命令はシングルスレッドでピーク 2命令、マルチスレッドでは競合した場合 1命令までに制限されます。

以下の表は他の CPU との比較です。

SOCPRIMEBIGLITTLE合計CORE数S-SPM-SP
Tensor G3X3 2.91GHz x1A715 2.37GHz x4A510 1.70GHz x4969.8281.9
Tensor G2X1 2.85GHz x2A78 2.35GHz x2A55 1.80GHz x4848.8227.5
Kirin 980A76 2.60GHz x2A76 1.92GHz x2A55 1.80GHz x4841.5186.7
Helio G99A76 2.20GHz x2A55 2.00GHz x6835.2163.8
↑ 浮動小数点演算命令単精度のピーク値、S-SP/M-SP の単位は GFLOPS。FLOPS の値が大きい方が高速

Cortex-X3 は 128bit で 4命令実行できる点は X1 と変わりませんが、fma のスループットが向上しておりそれが S-SP の結果に反映されています。X1 では fma の IPC が 2 でしたが X3 では 3 命令同時に実行できています。

Cortex-X3/A715/A510 では他にも i8mm や bf16 など ML 系の命令が増えていますので、そちらも後ほど調べてみたいと思います。

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IvyBridge と N100 を比較する

OS サポートが切れた 12年前の Mac mini をずっと Linux マシンとして使用していましたが、今なら Intel N100 の方が速いのではないかと思い速度を比べてみました。N100 は AlderLake (第12世代) の E-Core のみ搭載した CPU です。

以下は Ubuntu 22.04 におけるコンパイル時間 (clang 14) を比較したものです。

PCCPUTDPClockCoreThreadコンパイル時間
Mac mini Late2012Core i7-3615QM45W3.3GHzIvyBridge4C 8T69.57
Mini PCIntel N10020W3.2GHzAlderLake(E)4C 4T59.67
  • ↑コンパイル時間の数値が小さい方が高速

ストレージもメモリもクロックもちょうど同じくらいの性能でしたが、N100 の方が 10秒ほど早くビルドが終わっています。N100 は Atom 系の省電力コアながら、第3世代 Core の IvyBridge よりも速いことがわかります。

搭載されているメモリとストレージは以下の通りです。

PCCPURAM 容量メモリの種類メモリ速度STORAGE
Mac mini Late2012Core i7-3615QM16GBDDR3-1600 x225.6 GB/sSATA SSD
Mini PCIntel N10016GBDDR4-3200 x125.6 GB/sSATA SSD

なお N100 の TDP はスペックを見ると 6W ですが、テストした PC の UEFI (BIOS) では PL1=20W, PL2=無効 に設定されていたため今回の結果は 20W 時の値になっています。

さらに N100 で vfpbench の値も調べてみました。IvyBridge と比較してみます。

PCCPUTDPClockSingle SpSingle DpMulti SpMulti Dp
Mac mini Late2012Core i7-3615QM45W3.3GHz51.7G26.1G193.4G97.0G
Mini PCIntel N10020W3.2GHz54.2G27.1G185.0G92.6G
  • ↑数値の単位は FLOPS、値が大きい方が高速

すべての結果は以下の場所にあります。

掲載した表の数値はピーク値のみです。これを見るとどちらもあまり差が生じていないように見えますが、その内訳は大きく異なっています。

IvyBridge は 256bit の浮動小数点演算パイプを 2本持っており、それぞれ加算と乗算を受け持ちます。FMA には非対応ですが AVX 256bit の add と mul 命令を同時に実行できるため、この組み合わせがピーク値になります。add または mul 命令単独の場合は片方のみが使われるため効率は半減します。

N100 は FMA に対応しているため 1命令で積和演算が可能です。その代わり 256bit の AVX 命令はクロックあたりひとつしか実行できず、256bit fma がピーク値になります。128bit の AVX/SSE であれば 2命令実行できているため、浮動小数点演算の実行パイプラインは 128bit が 2本あることがわかります。この構成は AMD の Jaguar 系と似ています。

これらの結果より FMA や AVX2 があるので互換性の面でも N100 が有利ですが、fma 以外の 256bit AVX 浮動小数点演算が混在するようなケースでは IvyBridge の方がスループットが高くなる可能性があります。

大まかに両者の性能がわかったところで、他の PC ともコンパイル時間を比較してみたいと思います。

以下の表は同じ Linux 上での比較です。Ubuntu 22.04 Clang 14。SteamDeck は Distrobox を使用しています。

PCCPUTDPThreadCoreSTORAGEコンパイル時間
Mac mini Late2012Core i7-3615QM45W4C 8TIvyBridgeSATA SSD69.57 秒
Mini PCIntel N10020W4C 4TAlderLake(E)SATA SSD59.67 秒
SteamDeck LCDCustom APU 040515W4C 8TZen2NVMe 452.31 秒
Desktop PCRyzen 5 260065W6C 12TZen1+SATA SSD29.78 秒
  • ↑コンパイル時間の数値が小さい方が高速

以下の表は同じ Ubuntu 22.04 Clang 14 ですが Windows 上の WSL2 を使用しています。同じ N100 や Ryzen 5 2600 で比べるとわかるように、Native の Linux よりも若干遅めの数値になります。

CPUTDPTHREADCORESTORAGEコンパイル時間
Intel N10020W4C 4TAlderLake(E)NVMe 367.26 秒
Core i5-940065W6C 6TCoffeeLakeNVMe 355.86 秒
Core i7-4790K88W4C 8THaswellSATA SSD39.77 秒
Core i7-6700K65W4C 8TSKyLakeSATA SSD35.83 秒
Ryzen 5 5560U25W6C 12TZen3NVMe 335.04 秒
Ryzen 5 260065W6C 12TZen1+NVMe 332.10 秒
Ryzen 5 360065W6C 12TZen2NVMe 322.78 秒
Ryzen 7 4750G45W8C 16TZen2NVMe 322.36 秒
Ryzen Z1 Extreme25W8C 16TZen4NVMe 417.33 秒
Ryzen 9 3950X105W16C 32TZen2NVMe 39.17 秒
Core i7-1370065W16C 24TRaptorLakeNVMe 48.39 秒
  • ↑コンパイル時間の数値が小さい方が高速

やはりコア数が多い CPU や新しいアーキテクチャの CPU、消費電力の高い CPU は性能が上がります。

下の表はさらに Android 上の Termux (Clang 18.1.7) での計測してみた結果です。モバイルデバイスも CPU もコア数が多いので今回のケースでは速度が出ています。ただし RAM 容量が少ないことや放熱の問題があるので、大きなプロジェクトや長時間の連続稼働にはおそらく向きません。

PCCPUTHREADCOREコンパイル時間
iPlay 50 Mini ProHelio G998C 8T (2+6)A76 / A5553.68 秒
iPlay 50 ProHelio G998C 8T (2+6)A76 / A5547.45 秒
Huawei P30 ProKirin 9808C 8T (4+4)A76 / A5527.73 秒
Pixel 8aTensor G39C 9T (1+4+4)X3 / A715 / A51021.94 秒
Pixel 8Tensor G39C 9T (1+4+4)X3 / A715 / A51020.35 秒
  • ↑コンパイル時間の数値が小さい方が高速

N100 搭載 PC は安価で入手できることもあり人気があります。Raspberry Pi 5 を一通り揃えても同じくらいの価格帯になりますので、入手のしやすさは魅力といえます。IvyBridge の Core i7-3615QM との比較でも十分 N100 の方が速いことがわかりました。

ただし思ったよりも差は少なく、他の PC と比べると性能には限界があります。もし少ない価格差で Ryzen 5 5560U にアップグレードできるならビルド時間は約半分、浮動小数点演算性能も数倍になりますので、用途によってはこちらの方がコストパフォーマンスは良いかもしれません。

関連エントリ

Intel CPU Core i7-13700 (RaptorLake) の vfpbench 結果

Core i 12世代 (Alder Lake) 以降の Intel CPU は P-Core と E-Core、2種類の異なる CPU Core を搭載しています。ARM 系 CPU と同じように必要な負荷に応じてこれらのコアが使い分けられます。

vfpbench では種類によって計測するコアを区別する必要があるのですが、AlderLake 以降の Intel の非対称コアを今まで正しく認識できていませんでした。今回 Core i7-13700 を入手し、ようやく対応できたので結果を載せてみます。なお Linux では非対称コアを識別しますが、WSL1 上では区別できていないのでご注意ください。

以下は Linux で実行した Core i7-13700 の結果です。

結果からわかるように P-Core のピーク値は AVX 256bit の fma x 2 になっています。ここまでは従来の Skylake/IceLake 系と同じですが、mul + add の組み合わせの場合に 3命令実行できていることがわかります。

Ryzen Zen3/4 のように fma + add の組み合わせにならないためピーク値には影響がありませんが、おそらく AlderLake 以降は最大で 256bit x 3 命令が実行できるように拡張されているものと思われます。

P-Core
AVX vmul+addps (32bit x8) n8      :    0.197   124487.7    15561.0  (  8.0 3.1)
FMA vfmaddps (32bit x8) n8        :    0.371   132011.8     8250.7  ( 16.0 1.6)
FMA vfmaddps (32bit x8) n12       :    0.442   165987.5    10374.2  ( 16.0 2.0)
FMA vfma+mlps (32bit x8) n12      :    0.442   124495.1    10374.6  ( 12.0 2.0)
FMA vfma+adps (32bit x8) n12      :    0.381   144625.0    12052.1  ( 12.0 2.4)

また AVX512 が使用できません。そのため本来は対応していたと思われる fp16 演算や bf16 命令などもなくなっています。VNNI はあります。

E-Core の場合はピークが AVX 256bit fma x1 となっており、サイクルあたりの演算能力は P-Core の半分となっています。128bit 以下の場合は 2命令走っているので、実行パイプラインそのものは 128bit が 2本になっていると思われます。

E-Core
SSE addps (32bit x4) n8           :    0.305    32258.5     8064.6  (  4.0 2.0)
FMA vfmaddss (32bit x1) n12       :    0.525    14067.6     7033.8  (  2.0 1.7)
FMA vfmaddps (32bit x4) n12       :    0.521    56609.3     7076.2  (  8.0 1.7)
FMA vfmaddps (32bit x8) n8        :    0.602    65431.3     4089.5  ( 16.0 1.0)
FMA vfmaddps (32bit x8) n12       :    0.902    65432.2     4089.5  ( 16.0 1.0)
FMA vfma+mlps (32bit x8) n12      :    0.914    48433.6     4036.1  ( 12.0 1.0)
FMA vfma+adps (32bit x8) n12      :    0.914    48434.4     4036.2  ( 12.0 1.0)
128 add128 mul128 fma128 最大256 add256 mul256 fma256 最大
P-Core22232223
E-Core22221111

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Ryzen Zen3 の vfpbench 結果

Zen4 と順序が逆になりましたが Zen3 の結果も手に入れることができました。モバイル向け APU、Ryzen 5 5560U です。

実行ユニットは Zen2 同様 256bit の乗算(積和) x2 + 加算 x2 の構成です。そのため単純な fma 換算ではピーク値が Zen2 と変わらない fma x2 となるのですが、Zen3 の場合少々結果が異なります。

AVX vmulps (32bit x8) n8          :    0.172    64245.3     8030.7  (  8.0 3.5)
AVX vaddps (32bit x8) n8          :    0.172    64267.0     8033.4  (  8.0 3.5)
AVX vmul+addps (32bit x8) n8      :    0.086   128217.7    16027.2  (  8.0 7.0)
FMA vfmaddps (32bit x8) n8        :    0.214   103087.1     6442.9  ( 16.0 2.8)
FMA vfmaddps (32bit x8) n12       :    0.275   120290.1     7518.1  ( 16.0 3.3)
FMA vfma+mlps (32bit x8) n12      :    0.258    96422.6     8035.2  ( 12.0 3.5)
FMA vfma+adps (32bit x8) n12      :    0.172   144552.0    12046.0  ( 12.0 5.2)
AVX vml+ad+adps (32bit x8) n9     :    0.244    50965.1     6370.6  (  8.0 2.8)

fma x2 よりも fma + add の方が値が高くなっており、fma x 2 に加えて add も十分なスループットで回っているように見えます。ピーク値も追加の add 命令の分だけ上昇しています。パイプライン構成自体は大きく変わらないものの、Zen2 より命令発行数と実行効率が向上し、演算性能が上がっている事がわかります。

Zen4 の場合はこれに加えてさらに AVX512 にも対応します。fma だけ見ると違いがないように見えるかもしれませんが、世代毎に演算能力は上がっています。

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